裏のもり

第2話:身を守るために ─ 光・香・音、日常にある異界よけの作法

あの家なりの日からしばらく、私は考えていた。
「…あれは、ただの気のせいじゃなかったなぁ」

古民家に住んでいると、時々ふしぎなことは起こるもの。
でも、あのときは本当に「これは入れちゃダメなやつ」って直感がビリビリきた。なのに、無防備に招き入れちゃった。
結局、私は体調を崩して長い風邪みたいに寝込むことに。
(今だから笑えるけど、あの頃はしんどかった〜!)

そこから気づいたのは、
「見えない世界に“こんにちは”するだけじゃなくて、自分や家族を守る術も必要なんだ」ということ。

たとえば——
玄関で「どうぞ」って言う前に、心の中で境界線を結ぶ

ごはんやスープを分ける時も、「これは“人の世界のごはん”」って区切る

言葉や祈りを、ちょっとした結界のように使う
そんな小さな工夫で、不思議な存在との距離感はずいぶん変わります。

あのときの私みたいに、無邪気に招き入れてしまって、後から「げっ」ってなるよりは(笑)、直感でまずいと思うものには線を引いておく方がずっと安心。

家族を守ることって、目に見えるケアも大事だけど、
「目に見えないところまで意識して整える」っていうのも、実はすごく大切。
それが私の「異界とのお付き合いの作法」の始まりです。

「ただ出会うだけじゃなくて、ちゃんと境界を持たなきゃな。」

見えない世界とつながるのは楽しいけど、やっぱり暮らしの場は“わたしたちの居場所”として整えておきたい。

私がよく使うのは、火打石
カチン、と石を打つと、光と音が一瞬にして場を切り替えてくれる。
「ここからはこの私たち住人の場所ね」って合図のように。

それから、
うちの庭には、古いお家によくある、水を溜めておくものがたくさんある。そこに落ち葉が入り、雨水が溜まって濁ってくると、家の空気までどんよりしてくる気がする。
だから私は、流れを作ってあげることにしています。
水が澱むと気も澱む。水が流れると気も流れる。とてもシンプルだけど、それだけで空気が軽やかになります。

そして、やっぱり大事なのは言葉
「ありがとう」「おかえり」「ここは安心していいよ」
日々のやりとりの中で、言葉が結界みたいに空間を守ってくれるんです。
(私の中では、言葉は目に見えない布のようにふわっと場を包んでくれるイメージなんです)

そして、大切なのは、
「見えない世界はぜんぶ受け入れるのではなく、全部シャットアウトするんじゃなくて、どう関わるかを選ぶ」 ってこと。

うちの暮らしには、やさしい気配も、ちょっと困る気配も、いろんなものが通り抜けていきます。
ぜんぶを拒否したら、森や風や先祖からの声まで遠ざけてしまう。
それは、私のしたいことじゃない。

だから私は、こんなふうにしています。
害をなさない存在は、そのまま「どうぞ」と通ってもらう
家族の居場所をユラガスようなものは、境界でストップ
もし入り込んできても、「今日はここまでね」とお帰りいただく

そのための工夫が、火打石や水の流れや言葉。
カチンと火打石を打つと、「ここからは人の領分ね」と合図が響く。
庭の溜まり水を流すと、気まで澱まずスッと軽くなる。
「ありがとう」「おかえり」の言葉は、見えない布のように場をやさしく包み込む。

守ることは、怖いものを閉め出すための壁作りじゃなくて、
「ここは清らかに、安心でいられる場所ですよ」と場を整えることなんだと思います。

そうやって小さな工夫を重ねていくうちに、
怖さは減っていって、「暮らしを調える楽しさ」に変わっていきました。

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